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自己啓発のためにホストを始めた話(前編)-憧れと現実-

目次

変わるための方法


20代前半。僕は一般事務職をしながら、教員採用試験の合格を目指していた。
将来は安定した仕事がしたい。
その中で自分が1番興味を持ったのは教員だった。

教員になる過程で特に仕事へのこだわりはない。
誰にでもできるような仕事をしていた。

退勤後はカフェで勉強して、疲れたら家に帰る。
朝と夜をなぞるような変わり映えのない日々。
それも合格するまでの辛抱だ。


しかし、結果は3年連続で不合格。
人物重視と言われる2次試験は3回全て最低評価。


人格を否定されているようなものだった。
何も成長していない自分への無能さに絶望していた。


一方、友人は大企業でキャリアを積み上げていく。
みんなが仕事の話で盛り上がってもついていけない。
数年でだいぶ差がついてしまった。
置いていかれるのは辛かった。



僕はまだスタートラインにも立てていなかった。

このままではいけない。

そんな自分を変えたくて自己啓発に没頭したのが全ての始まりだった。




毎日本屋に通い詰め、変わるための突破口を探した。
ビジネス書、心理学、脳科学、役立ちそうな本は何でも読んだ。
気に入った本は何度も読み返し、ノートにまとめ直す。

ページ量と比例して成長しているように思えた。
だが、それは自己満足に過ぎない。
3ヶ月経ち変化のない自分に気が付いてしまった。


理由は単純明快だった。
本だけで自己完結しようとしていたからだ。

実践的な学びが必要だった。
人と関わることに抵抗はあったが、そうも言っていられない。
様々なコミュニティやセミナーに参加するようになっていった。

知らない世界を知っていくのは面白いが、胡散臭く信用できない人も多い。
人は見極めなければならない。


そこでセナというホストと出会った。
その熱に押され、ホストの体験入店に行くことになる。


ホストの世界へ


ここは歌舞伎町。
今までの人生で交差することもなかった場所。
雰囲気に呑まれながら店へと案内される。

キャバクラさえ行ったこともない。
イメージとリアルでのギャップ。
場違い感に不安を覚えながら席につく。

そんな自分の心を見透かすように言葉をかけ、場を和ませてくれるセナさん。
相手の背景に配慮した会話、相手の求めている会話。それを自然にできる実力。
これが1000万プレイヤー。尊敬と感動があった。

夜の世界に惹かれる自分もいたが、そこはあまりにも別世界。
入店することは到底考えられない。
また機会があれば、とそのまま店を後にした。



ただ、この世界をもっと知りたいという興味は残っていた。
もう少しだけ触れたくて、他店にも体験入店に回った。
こんな僕でも入店を促してくれる。
従業員を増やしたい店は多いのだろう。

ホストの勧誘に力強さはあったが、
僕は簡単に人を信用しない。
何よりも踏み込む勇気がなかった。
LINEを交換しても社交辞令で連絡を回避していた。


だが、セナさんだけは違った。
僕に何度も連絡してきた。
口だけはなく、時間も作ってくれた。


「俺はまーと一緒に店を盛り上げたい」

「俺が必ず成長させる」



セナさんは何度も僕に言ってくれた。

嘘ではない、と思った。
人から必要とされる体験なんていつぶりだろうか。
その言葉が純粋に嬉しかった。

セナさんは、長い下積みを経て成功した人だった。
結果が出なかった頃の話もしてくれた。
自分の過去と重なる部分もあった。


僕は努力しても結果を出せない自分が嫌いだった。
人は簡単には変われない。
それを思い知らされた3年間は辛かった。

セナさんのようになりたい。

この人に着いていきたい。


どうしても僕は変わりたかった。

自分を信じられず、劣等感に苦しみ続ける人生を送るぐらいなら。

人を恐れ、誰も信じることができない人間になるぐらいなら。

それらを突破できる可能性があるのなら。




何だってやってやる。


今1番足りないもの。

それは覚悟だ。

僕は、僕自身とセナさんを信じる。



その日、僕は初めて人生のレールを外れることになる。
昼職を辞め、勢いでホストの世界へ飛び込んだ。
25歳の誕生日だった。


自分の武器


最初は目にするもの全てが新鮮で楽しかった。
ノリについていけない時も先輩がフォローしてくれたり、わからないことは聞けば優しく教えてくれた。

だが、経験を積むだけでは成功しないことは肌でわかった。
セナさんからは、自分の武器を探せと言われていた。


容姿で勝負するのは難しかった。
身長は160cm以下、素材は良い方ではない。

トーク力はない。
僕は1人が好きだし、ノリが求められるような場は極力避けて生きてきた。
そのレベルからトーク力を身につけるには長い時間がかかる。

そして、特別印象に残るような個性や特技もない。
自分に武器があるとするならば、真面目なことぐらいだ。
店で1番真面目な自信だけはあった。
あるもので勝負するしかない。



だから誰よりもクソ真面目に学んで吸収することを決めた。


まず、売れるホストの振る舞いを何度も観察した。
目線、歩き方、座り方、話し方。
自分の動きは何が違うのか?
どんな癖、どんな違和感を持っているのか?
そこで自分を客観視することがいかに難しいかを知った。


自分に合うファッション、サイズ感、髪型、眉毛、肌、体型。
色が与える印象、アクセサリー、香水、総合的なバランス。

自分のイメージをどう相手に与えるか?
相手の属性からどう逆算していくか?
センスはいくらネットで検索しても学べるようなものではない。
先輩にフィードバックをもらいながら、失敗しながら掴んでいった。

会話は体で覚えるしかなかった。
相手は何を考えているのか?
何を言ってほしいのだろうか?
仮説検証を繰り返し、ノートに気づきやポイントを書き足していく。


恋愛商材や恋愛コンサルにも可能な限り自己投資をした。
コツコツ貯めた100万円を惜しみもなく使う。
普通にやっていたら絶対に追いつけない。
成長するために、成功確率を上げるために必死だった。



一つ一つをカスタマイズ。
アップデートを重ねていく。
過去の自分は捨ててしまえばいい。
ここで絶対に成功したかった。
負けてばかりの人生、これ以上自信を失いたくなかった。



一方で、お金と時間を限界まで投下しても成果を得られない自分にイライラし始めていた。



先の見えぬ絶望



まだ足りないのだろうか?
やっぱり僕には無理なんだろうか?


荒削りだが、間違いなく垢抜けはしている。
久々に友人に会うと変化に驚かれ、別人のようだとも言われた。
褒められることも増えた。

それでもお客さんはほとんどつかなかった。
給料は昼職の半分。生活も苦しい。

同期で入ってきた仲間は既に売れ始めている。
元からイケてる奴やカリスマ性がある奴だった。
最初からレベルがまるで違うのがわかった。

自分と同じような属性の仲間と励まし合って頑張ってきた。
しかし、誰1人と結果を出せずに消えた。
もう自分しか残っていなかった。

「マジつまんないんだけど」
「話本当に下手くそだね。新人でしょ?」 
「君と話しても時間の無駄だから、違う人呼んでもらっていい?」


時に言葉はボディブローのように効いてくる。
わかっている。
悪いのは楽しませられない僕だ。
相手への怒りや憤りよりも、自分への劣等感に苦しめられる。



先の見えぬ、とてつもなく大きな壁。



何を修正すればいい?

どう頑張ればいい?

もうわからなくなっていた。



「もうどうでもいい」

やがて僕は闇に呑まれていった。




自分でも気づかないうちに酒に溺れるようになる。

不適合でも笑っていたかった。

苦しかった。

アルコールが僕を救ってくれるような気がした。


酔いが覚めて残る虚しさを塗り潰すようにアルコールで上書きし続けた。



酔い潰れてゴミ袋の束の上で目を覚ました朝。
自分が役立たずのゴミとでも言われてるような、
冷ややかな目を向けられる。
馬鹿にするな!とゴミ袋を思いきり蹴飛ばした。
悔しくて情けなくて仕方がなかった。



友人の結婚式。
お酒を飲みすぎて暴れて。
外へ飛び出して、1人で泣いた。

あまりにも友人が眩しかった。
素直に祝福できれば良かったのに。
友人からの励ましが逆に苦しかった。
自分がますます嫌いになっていく。

温厚な自分が好きだったはずなのに。
良いところまで壊れていくような音がした。



心が不安定だとトラブルにも遭いやすかった。
半グレに目を付けられ、監禁されたこともあった。
人は強い恐怖を感じると冷静な判断ができなくなるらしい。
生きるために残しておいた貯金を奪われ、全財産を失うことになる。

日払いで給料をもらい、その日暮らし。
そんな生活をしていて売れるわけがない。
足りない分はグレーな仕事で補うしかなかった。


堕ちていく自分を止めることはもうできなかった。



こんな人生は望んでいない。

どこで間違えたんだろうか?

僕はただ、変わりたかった。

それだけなのに。



今日もお客さんを呼べなかった。
女性から否定される。否定される。否定される。
自分は誰からも必要とされない。
興味すらもってもらえない。
なんて価値のない人間なんだろうか。
毎日、毎日、繰り返し、現実を叩きつけられる。


どうすんだよこの先。
見つからない答えをノートに書き殴り続ける。
先の見えない絶望感と無力感に押しつぶされそうだった。


それでも今辞めたら自分を裏切ってしまう気がした。
ここで逃げたらもう二度と立ち上がれなくなるかもしれない。

この道を望んだのは僕だ。
選んだのは自分なんだ。
誰のせいでもない。
だから、負けたくない。


もう少しだけ。
もう少しだけ、やってみよう。


そんな、ただ一握りの思いだけで自分を保っていた。

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